ドイツの5cm角キューブサット「ERMINAZ」

1. ERMINAZとは?

ERMINAZは、ドイツのアマチュア衛星協会(AMSAT-DL)が中心となって開発している、非常に小さな人工衛星(ポケットキューブ規格)のプロジェクトです。名前の由来は、バイエルン地方の古い言葉や伝承に関連する「オコジョ(Ermine)」からきており、小さくて機敏なイメージを象徴しています。

2. 最大の特徴:サイズ

この衛星の最大の特徴は、一般的な小型衛星「CubeSat(キューブサット)」よりもさらに小さい**「PocketQube(ポケットキューブ)」**という規格を採用している点です。

  • サイズ: 5cm × 5cm × 5cm(1Pサイズ)
  • 重さ: 数百グラム程度
  • 手のひらにすっぽり収まるほどのサイズですが、本物の人工衛星として宇宙で機能するように設計されています。

3. 主なミッション(目的)

ERMINAZには主に3つの目的があります。

  1. アマチュア無線通信の提供: 宇宙を中継局として、地上のアマチュア無線家同士が通信できる「リピーター(中継器)」の機能を持たせます。
  2. 新しい通信技術のテスト: 限られた電力と小さなアンテナで、どれだけ効率よくデータを送受信できるかという技術実証を行います。
  3. 教育とオープンソース: このプロジェクトはオープンソースGitLabで公開)として進められており、世界中の誰もが設計図やソフトウェアを確認できます。これにより、学生や技術者が衛星開発を学ぶための教材としての役割も果たしています。

4. 技術的な注目点

  • 低消費電力設計: 極小サイズのため、太陽電池パネルから得られる電力は非常にわずかです。そのため、超低電力で動作する基板設計がなされています。
  • LoRa通信の活用: 少ない電力で遠距離通信ができる「LoRa(ローラ)」という通信方式などの実験が検討されています。
  • ソフトウェア定義無線 (SDR): 小さな筐体の中で柔軟に通信方式を変更できるよう、高度な信号処理技術が詰め込まれています。

5. なぜ注目されているのか?

これまで人工衛星の開発には数億円以上の費用と長い年月が必要でしたが、ERMINAZのようなポケットキューブは、**「より安く、より早く、誰でも宇宙へ」**という新しい宇宙開発(ニュースペース)の流れを象徴しています。特にAMSAT-DLは、過去に「QO-100」という静止アマチュア衛星通信を成功させた実績のある非常に技術力の高い団体であるため、彼らが作る極小衛星がどのようなパフォーマンスを発揮するのか、世界中のアマチュア無線家や技術者が注目しています。

まとめ

ERMINAZは、**「手のひらサイズのオープンソース衛星で、アマチュア無線の未来を切り拓く」**プロジェクトです。興味があれば、GitLabのページで、回路図(Schematics)やソースコードを覗いてみると、その精密な設計に驚かされるはずです。

GitLabの概要

リポジトリの内容を詳しく解析すると、主に以下の4つの構成要素で成り立っていることがわかります。

1. ハードウェア設計(Hardware)

衛星の基板や構造体の設計データが含まれています。

  • 回路図 (Schematics): 衛星のメインボード、通信ボード、電力管理ボード(EPS)などの設計図です。
  • 基板レイアウト (PCB Layout): 部品をどこに配置するかという、実際のプリント基板のデータです。
  • 3Dモデル: 5cm角の筐体にどうやって部品を詰め込むかを示す、CADデータなどが含まれます。

2. ソフトウェア・ファームウェア(Software)

衛星を動かすための「脳」にあたるプログラムです。

  • OBC (On-Board Computer) コード: 衛星全体を制御し、センサーデータの処理や電力管理を行うメインプログラム。
  • 通信プロトコルスタック: 地上からの命令(アップリンク)を理解し、テレメトリ(健康状態データ)を送信するためのプログラム。
  • LoRa/FSK変調コード: 低電力で確実に通信するための、無線通信チップ制御コードが含まれています。

3. ミッション・ペイロード(Mission Payloads)

特定の実験を行うための特別なコードやデータです。

  • SSDV (Slow Scan Digital Video): 衛星が撮影した画像をパケットに分割して地上に送るための画像伝送システム。
  • センサーデータ処理: 放射線センサーや加速度計(ジャイロ・磁気計)からの情報を解析するコード。

4. ドキュメントとテストツール(Documentation & Testing)

  • 通信規格の定義: どの周波数で、どのようなデータ形式(CCSDSやAX.25など)で通信するかの仕様書。
  • 地上局用ソフトウェア: アマチュア無線家が自宅のパソコンで衛星の信号をデコード(解析)するためのツールや、GNU Radio用の設定ファイル。

まとめると

このGitLabは、**「誰でも同じ衛星を作ることができる、あるいは改良に参加できる」**ための完全なレシピ集です。

特に注目すべきは、スペインのAMSAT-EAやLibre Space Foundationといった他国の団体とも連携しており、複数のプロジェクト(ERMINAZ-1U, 1V, 1Xなど)がこの一つのリポジトリ群で統合的に管理されている点です。技術者やアマチュア無線家は、ここにあるコードを見ることで、「どうやって5cmの立方体で宇宙と通信するのか」という最先端のノウハウを学ぶことができます。

AMSAT-DL 2023 Symposium – ERMINAZ Multi-PocketQube Mission